謀叛論(草稿)
徳冨蘆花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)青山方角へ往《ゆ》くとすれば、

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)谷|一重《ひとえ》のさし向い、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)磅※[#「石+(蒲/寸)」、第3水準1−89−18]《ほうはく》
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 僕は武蔵野の片隅に住んでいる。東京へ出るたびに、青山方角へ往《ゆ》くとすれば、必ず世田ヶ谷を通る。僕の家から約一里程行くと、街道の南手に赤松のばらばらと生えたところが見える。これは豪徳寺――井伊掃部頭直弼《いいかもんのかみなおすけ》の墓で名高い寺である。豪徳寺から少し行くと、谷の向うに杉や松の茂った丘が見える。吉田松陰の墓および松陰神社はその丘の上にある。井伊と吉田、五十年前には互《たがい》に倶不戴天《ぐふたいてん》の仇敵で、安政の大獄《たいごく》に井伊が吉田の首を斬れば、桜田の雪を紅に染めて、井伊が浪士に殺される。斬りつ斬られつした両人も、死は一切の恩怨《おんえん》を消
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