帝陛下がことごとく罪を宥《ゆる》して反省の機会を与えられた――といえば、いささか面目が立つではないか。皇室を民の心腹に打込むのも、かような機会はまたと得られぬ。しかるに彼ら閣臣の輩《やから》は事前《じぜん》にその企を萌《きざ》すに由《よし》なからしむるほどの遠見と憂国の誠もなく、事後に局面を急転せしむる機智親切もなく、いわば自身で仕立てた不孝の子二十四名を荒れ出すが最後得たりや応と引括《ひっくく》って、二進《にっちん》の一十《いんじゅう》、二進の一十、二進の一十で綺麗に二等分して――もし二十五人であったら十二人半|宛《ずつ》にしたかも知れぬ、――二等分して、格別物にもなりそうもない足の方だけ死一等を減じて牢屋に追込み、手硬《てごわ》い頭だけ絞殺して地下に追いやり、あっぱれ恩威|並《ならび》行われて候と陛下を小楯《こだて》に五千万の見物に向って気どった見得《みえ》は、何という醜態であるか。啻《ただ》に政府ばかりでない、議会をはじめ誰も彼も皆大逆の名に恐れをして一人として聖明のために弊事《へいじ》を除かんとする者もない。出家僧侶、宗教家などには、一人位は逆徒の命乞《いのちごい》する者があっ
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