て宜いではないか。しかるに管下の末寺から逆徒が出たといっては、大狼狽《だいろうばい》で破門したり僧籍を剥いだり、恐れ入り奉るとは上書しても、御慈悲と一句書いたものがないとは、何という情ないことか。幸徳らの死に関しては、我々五千万人|斉《ひと》しくその責《せめ》を負わねばならぬ。しかしもっとも責むべきは当局者である。総じて幸徳らに対する政府の遣口《やりくち》は、最初から蛇の蛙を狙う様で、随分陰険冷酷を極めたものである。網を張っておいて、鳥を追立て、引《ひっ》かかるが最期網をしめる、陥穽《おとしあな》を掘っておいて、その方にじりじり追いやって、落ちるとすぐ蓋《ふた》をする。彼らは国家のためにするつもりかも知れぬが、天の眼からは正しく謀殺――謀殺だ。それに公開の裁判でもすることか、風紀を名として何もかも暗中《あんちゅう》にやってのけて――諸君、議会における花井弁護士の言を記臆せよ、大逆事件の審判中当路の大臣は一人もただの一度も傍聴に来なかったのである――死の判決で国民を嚇《おど》して、十二名の恩赦でちょっと機嫌を取って、余の十二名はほとんど不意打の死刑――否《いな》、死刑ではない、暗殺――暗
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