ぶね》さはりありとも」。国家の元首として、堅実の向上心は、三十一文字に看取される。「浅緑り澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな」。実に立派な御心《おんこころ》がけである。諸君、我らはこの天皇陛下を有《も》っていながら、たとえ親殺しの非望を企てた鬼子《きし》にもせよ、何故《なにゆえ》にその十二名だけ宥《ゆる》されて、余《よ》の十二名を殺してしまわなければならなかったか。陛下に仁慈の御心がなかったか。御愛憎があったか。断じて然《そう》ではない――たしかに輔弼《ほひつ》の責《せめ》である。もし陛下の御身近く忠義|※[#「魚+更」、第3水準1−94−42]骨《こうこつ》の臣があって、陛下の赤子《せきし》に差異はない、なにとぞ二十四名の者ども、罪の浅きも深きも一同に御宥し下されて、反省改悟の機会を御与え下されかしと、身を以て懇願する者があったならば、陛下も御頷《おんうなず》きになって、我らは十二名の革命家の墓を建てずに済《す》んだであろう。もしかような時にせめて山岡鉄舟がいたならば――鉄舟は忠勇無双の男、陛下が御若い時英気にまかせやたらに臣下を投げ飛ばしたり遊ばすのを憂《うれ》えて、ある時
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