丘の一部を取り込めて、庭には水をたたえ、石を据え、高きに道し、低きに橋して、楓《かえで》桜松竹などおもしろく植え散らし、ここに石燈籠《いしどうろう》あれば、かしこに稲荷《いなり》の祠《ほこら》あり、またその奥に思いがけなき四阿《あずまや》あるなど、この門内にこの庭はと驚かるるも、山木が不義に得て不義に築きし万金の蜃気楼《しんきろう》なりけり。
 時はすでに午後四時過ぎ、夕烏《ゆうがらす》の声|遠近《おちこち》に聞こゆるころ、座敷の騒ぎを背《うしろ》にして日影薄き築山道《つきやまみち》を庭下駄《にわげた》を踏みにじりつつ上り行く羽織袴《はおりはかま》の男あり。こは武男なり。母の言《ことば》黙止《もだ》し難くて、今日山木の宴に臨みつれど、見も知らぬ相客と並びて、好まぬ巵《さかずき》挙《あ》ぐることのおもしろからず。さまざまの余興の果ては、いかがわしき白拍子《しらびょうし》の手踊りとなり、一座の無礼講となりて、いまいましきこと限りもなければ、疾《と》くにも辞し去らんと思いたれど、山木がしきりに引き留むるが上に、必ず逢《あ》わんと思える千々岩の宴たけなわなるまで足を運ばざりければ、やむなく留《
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