からむさぼることばかり知っとる」
 今そこに当の敵のあるらんように息巻き荒く攻め立つるまだ無経験の海軍少尉を、身にしみて聞き惚《ほ》るる浪子は勇々《ゆゆ》しと誇りて、早く海軍大臣かないし軍令部長にして海軍部内の風《ふう》を一新したしと思えるなり。
 「本当にそうでございましょうねエ。あの、何だかよくは存じませんが、阿爺《ちち》がね、大臣をしていましたころも、いろいろな頼み事をしていろいろ物を持って来ますの。阿爺《ちち》はそんな事は大禁物《だいきんもつ》ですから、できる事は頼まれなくてもできる、できない事は頼んでもできないと申して、はねつけてもはねつけてもやはりいろいろ名をつけて持ち込んで来ましたわ。で、阿爺《ちち》が戯談《じょうだん》に、これではたれでも役人になりたがるはずだって笑っていましたよ」
 「そうだろう、陸軍も海軍も同じ事だ。金の世の中だね、浪さん――やあもう十時か」おりからりんりんとうつ柱時計を見かえりつ。
 「本当に時間《とき》が早くたつこと!」

     二の一

 芝桜川町なる山木兵造が邸《やしき》は、すぐれて広しというにあらねど、町はずれより西久保《にしのくぼ》の
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