――ばかな。あのばか娘もしようがないね、浪さん。あんな娘でももらい人《て》があるかしらん。ははは」
 「母《おっか》さまは、千々岩はあの山木と親しくするから、お豊を妻《さい》にもらったらよかろうッて、そうおっしゃっておいでなさいましたよ」
 「千々岩?――千々岩?――あいつ実に困ったやっだ。ずるいやつた知ってたが、まさかあんな嫌疑《けんぎ》を受けようとは思わんかった。いや近ごろの軍人は――僕も軍人だが――実にひどい。ちっとも昔の武士らしい風《ふう》はありやせん、みんな金のためにかかってる。何、僕だって軍人は必ず貧乏しなけりゃならんというのじゃない。冗費を節して、恒《つね》の産を積んで、まさかの時節《とき》に内顧の患《うれい》のないようにするのは、そらあ当然さ。ねエ浪さん。しかし身をもって国家の干城ともなろうという者がさ、内職に高利を貸したり、あわれむべき兵の衣食をかじったり、御用商人と結託して不義の財をむさぼったりするのは実に用捨がならんじゃないか。それに実に不快なは、あの賭博《とばく》だね。僕の同僚などもこそこそやってるやつがあるが、実に不愉快でたまらん。今のやつらは上にへつらって下
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