ると、十畳敷きがもったいないほど広くて何から何まで結構ずくめ、まるで極楽だね、浪さん。――ああ、何だか二度|蜜月遊《ホニムーン》をするようだ」
 げに新婚間もなく相別れて半年ぶりに再び相あえる今日このごろは、ふたたび新婚の当時を繰り返し、正月の一時に来つらん心地《ここち》せらるるなりけり。
 語《ことば》はしばし絶えぬ。両人《ふたり》はうっとりとしてただ相笑《あいえ》めるのみ。梅の香《か》は細々《さいさい》として両人《ふたり》が火桶《ひおけ》を擁して相対《あいむか》えるあたりをめぐる。
 浪子はふと思い出《い》でたるように顔を上げつ。
 「あなたいらっしゃいますの、山木に?」
 「山木かい、母《おっか》さんがああおっしゃるからね――行かずばなるまい」
 「ほほ、わたくしも行きたいわ」
 「行きなさいとも、行こういっしょに」
 「ほほほ、よしましょう」
 「なぜ?」
 「こわいのですもの」
 「こわい? 何が?」
 「うらまれてますから、ほほほ」
 「うらまれる? うらむ? 浪さんを?」
 「ほほほ、ありますわ、わたくしをうらんでいなさる方が。おのお豊《とよ》さん……」
 「ははは、何を
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