っさんをもっているね、浪さん」
 浪子はにっこり、ちらと武男の顔をながめて
 「その上に――」
 「エ? 何です?」驚き顔に武男はわざと目をみはりつ。
 「存じません、ほほほほほ」さと顔あからめ、うつぶきて指環《ゆびわ》をひねる。
 「いやこれは大変、浪さんはいつそんなにお世辞が上手《じょうず》になったのかい。これでは襟《えり》どめぐらいは廉《やす》いもんだ。はははは」
 火鉢の上にさしかざしたる掌《てのひら》にぽうっと薔薇色《ばらいろ》になりし頬を押えつ。少し吐息つきて、
 「本当に――永《なが》い間|母《おっか》様も――どんなにおさびしくッていらっしゃいましてしょう。またすぐ勤務《おつとめ》にいらっしゃると思うと、日が早くたってしようがありませんわ」
 「始終|内《うち》にいようもんなら、それこそ三日目には、あなた、ちっと運動にでも出ていらっしゃいませんか、だろう」
 「まあ、あんな言《こと》を――も一杯《ひとつ》あげましょうか」
 くみて差し出す紅茶を一口飲みて、葉巻の灰をほとほと火鉢の縁にはたきつ、快くあたりを見回して、
 「半年の余《よ》もハンモックに揺られて、家《うち》に帰
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