にしてお置き」と小間使いにいいつけて、浪子は良人の居間に入りつ。
「あなた、お疲れ遊ばしたでしょう」
葉巻の青き煙《けぶり》を吹きつつ、今日到来せし年賀状名刺など見てありし武男はふり仰ぎて、
「浪さんこそくたびれたろう、――おおきれい」
「?」
「美しい花嫁様という事さ」
「まあ、いや――あんな言《こと》を」
さと顔打ちあかめて、ランプの光まぶしげに、目をそらしたる、常には蒼《あお》きまで白き顔色《いろ》の、今ぼうっと桜色ににおいて、艶々《つやつや》とした丸髷《まるまげ》さながら鏡と照りつ。浪に千鳥の裾模様、黒襲《くろがさね》に白茶七糸《しらちゃしゅちん》の丸帯、碧玉《へきぎょく》を刻みし勿忘草《フォルゲットミイノット》の襟《えり》どめ、(このたび武男が米国より持《も》て来たりしなり)四|分《ぶ》の羞《はじ》六|分《ぶ》の笑《えみ》を含みて、嫣然《えんぜん》として燈光《あかり》のうちに立つ姿を、わが妻ながらいみじと武男は思えるなり。
「本当に浪さんがこう着物をかえていると、まだ昨日《きのう》来た花嫁のように思うよ」
「あんな言《こと》を――そんなことをおっしゃると往《
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