起こされようよう胸なでおろし参らせ候 愚痴と存じながらも何とやら気に相成りそれにつけても御《おん》帰りが待ち遠く存じ上げ参らせ候 何も何もお帰りの上にと日々《にちにち》東の空をながめ参らせ候 あるいは行き違いになるや存ぜず候えどもこの状はハワイホノルル留め置きにて差し上げ参らせ候(下略)
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十月 日[#この行ここまで相対的に字が小さい、ここからは下揃え、下から3字上げ]浪より
恋しき恋しき恋しき
武男様
御もとへ
[#改丁]
中 編
一の一
今しも午後八時を拍《う》ちたる床の間の置き時計を炬燵《こたつ》の中より顧みて、川島未亡人は
「八時――もう帰りそうなもんじゃが」
とつぶやきながら、やおらその肥え太りたる手をさしのべて煙草《たばこ》盆を引き寄せ、つづけざまに二三服吸いて、耳|傾《かたぶ》けつ。山の手ながら松の内《うち》の夜《よ》は車東西に行き違いて、隣家《となり》には福引きの興やあるらん、若き男女《なんにょ》の声しきりにささめきて、おりおりどっと笑う声も手にとるように聞こえぬ。未亡人は舌打ち鳴ら
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