ごしにいたし候ものの近ごろは忘れし地図など今さらにとりいでて今日はお艦《ふね》のこのあたりをや過ぎさせたまわん明日《あす》は明後日《あさって》はと鉛筆にて地図の上をたどり居参らせ候 ああ男に生まれしならば水兵ともなりて始終おそば離れずおつき申さんをなどあらぬ事まで心に浮かびわれとわが身をしかり候ても日々物思いに沈み参らせ候 これまで何心なく目もとめ申さざりし新聞の天気予報など今|在《いま》すあたりはこのほかと知りながら風など警戒のいで候節は実に実に気にかかり参らせ候 何とぞ何とぞお尊体《からだ》を御《おん》大切に……(下文略)
[#1字下げここまで]
[#この行、下揃え、下から3字上げ]浪より
   恋しき
     武男様

     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 [#これより手紙文、1字下げ]
(上略)近ごろは夜々《よるよる》御《おん》姿の夢に入り実に実に一日千秋の思いをなしおり参らせ候 昨夜もごいっしょに艦《ふね》にて伊香保に蕨《わらび》とりにまいり候ところふとたれかが私《わたくし》どもの間に立ち入りてお姿は遠くなりわたくしは艦《ふね》より落ちると見て魘《おそ》われ候ところを母上様に
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