らせ候
 わたくし事も今になりていろいろ勉強の足らざりしを憾《うら》み参らせ候 家政の事は女の本分なればよくよく心を用い候よう平生《かねがね》父より戒められ候事とて宅におり候ころよりなるたけそのつもりにて居《い》参らせ候えども何を申しても女のあさはかにそのような事はいつでもできるように思いいたずらに過ごし参らせ候より今となりてあの事も習って置けばよかりしこの事も忘れしと思いあたる事のみ多く困り入り参らせ候 英語の勉強も御仰《おんおお》せの言《こと》も有之《これあり》候えばぜひにと心がけ参らせ候えども机の前にばかりすわり候ては母上様の御思召《おぼしめし》もいかがと存ぜられ今しばらくは何よりもまず家政のけいこに打ちかかり申したく何とぞ何とぞ悪《あ》しからず思召《おぼしめし》のほど願い上げ参らせ候
 誠におはずかしき事に候えどもどうやらいたし候節はさびしさ悲しさのやる瀬なく早く早く早く御《おん》目にかかりたく翼あらばおそばに飛んでも行きたく存じ参らせ候事も有之《これあり》夜ごと日ごとにお写真とお艦《ふね》の写真を取り出《い》でてはながめ入り参らせ候 万国地理など学校にては何げなく看過《みす》
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