章《たまずさ》とる手おそしとくりかえしくりかえしくりかえし拝し上げ参らせ候 さ候えばはげしき暑さの御《おん》さわりもあらせられず何より何より御嬉《おんうれ》しゅう存じ上げ参らせ候 この許《もと》御母上様御病気もこの節は大きにお快く何とぞ何とぞ御安心遊ばし候よう願い上げ参らせ候 わたくし事も毎日とやかくとさびしき日を送りおり参らせ候 お留守の事にも候えば何とぞ母上様の御機嫌《ごきげん》に入り候ようにと心がけおり参らせ候えども不束《ふつつか》の身は何も至り兼ね候事のみなれぬこととて何かと失策《しくじり》のみいたし誠に困り入り参らせ候 ただただ一日も早く御《おん》帰り遊ばし健やかなるお顔を拝し候時を楽しみに毎日暮らしおり参らせ候
 赤坂の方も何ぞかわり候事も無之《これなく》先日より逗子《ずし》の別荘の方へ一同《みなみな》まいり加藤家も皆々|興津《おきつ》の方へまいり東京はさびしきことに相成り参らせ候 幾《いく》も一緒に逗子に罷《まか》り越し無事相つとめおり参らせ候 御伝言《おんことづけ》の趣申しつかわし候ところ当人も涙を流して喜び申し候由くれぐれもよろしく御《おん》礼申し上げ候よう申し越し参
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