れ家郷思遠征《かきょうえんせいをおもう》と吟じて平気に澄ましておれど、(笑いたもうな)浪さんの写真は始終ある人の内ポケットに潜みおり候。今この手紙を書く時も、宅《うち》のあの六畳の部屋《へや》の芭蕉《ばしょう》の陰の机に頬杖《ほおづえ》つきてこの手紙を読む人の面影がすぐそこに見え候(中略)
シドニー港内には夫婦、家族、他人交えずヨットに乗りて遊ぶ者多し。他日功成り名遂げて小生も浪さんも白髪《しらが》の爺姥《じじばば》になる時は、あにただヨットのみならんや、五千トンぐらいの汽船を一艘《いっそう》こしらえ、小生が船長となって、子供や孫を乗組員として世界週航を企て申すべく候。その節はこのシドニーにも来て、何十年|前《ぜん》血気盛りの海軍少尉の夢を白髪の浪さんに話し申すべく候(下略)
[#1字下げここまで]
シドニーにて[#この行、下揃え、下から7字上げ、相対的に字が小さい]
八月 日[#この行ここまで相対的に字が小さい、ここからは下揃え、下から3字上げ]武 男 生
浪子さま
七の二
[#これより手紙文、1字下げ]
去る七月十五日香港よりお仕出しのおなつかしき玉
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