に別紙(略之)読んでお聞かせ申し上げられたく候。
当池には四五日|碇泊《ていはく》、食糧など買い入れ、それよりマニラを経て豪州シドニーへ、それよりニューカレドニア、フィジー諸島を経て、サンフランシスコへ、それよりハワイを経て帰国のはずに候。帰国は多分秋に相成り申すべく候。
手紙はサンフランシスコ日本領事館留め置きにして出したまえ。
[#1字下げここまで]
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[#これより手紙文、1字下げ]
(前文略)去る五月は浪さんと伊香保にあり、蕨《わらび》採りて慰みしに今は南半球なる豪州シドニーにあり、サウゾルンクロッスの星を仰いでその時を想《おも》う。奇妙なる世の中に候。先年練習艦にて遠洋航海の節は、どうしても時々|船暈《ふなよい》を感ぜしが、今度は無病息災われながら達者なるにあきれ候。しかし今回は先年に覚えなき感情身につきまとい候。航海中当直の夜《よ》など、まっ黒き空に金剛石をまき散らしたるような南天を仰ぎて、ひとり艦橋の上に立つ時は、何とも言い難き感が起こりて、浪さんの姿が目さきにちらちらいたし(女々《めめ》しと笑いたもうな)候。同僚の前ではさもあらばあ
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