草鞋《わらじ》脱《ぬ》ぎすてて、出迎う二人《ふたり》にちょっと会釈しながら、廊下に上りて来し二十三四の洋服の男、提燈《ちょうちん》持ちし若い者を見返りて、
「いや、御苦労、御苦労。その花は、面倒だが、湯につけて置いてもらおうか」
「まあ、きれい!」
「本当にま、きれいな躑躅《つつじ》でございますこと! 旦那様、どちらでお採り遊ばしました?」
「きれいだろう。そら、黄色いやつもある。葉が石楠《しゃくなげ》に似とるだろう。明朝《あす》浪《なみ》さんに活《い》けてもらおうと思って、折って来たんだ。……どれ、すぐ湯に入って来ようか」
*
「本当に旦那様はお活発でいらっしゃいますこと! どうしても軍人のお方様はお違い遊ばしますねエ、奥様」
奥様は丁寧に畳《たた》みし外套《がいとう》をそっと接吻《せっぷん》して衣桁《いこう》にかけつつ、ただほほえみて無言なり。
階段《はしご》も轟《とどろ》と上る足音障子の外に絶えて、「ああいい心地《きもち》!」と入り来る先刻の壮夫《わかもの》。
「おや、旦那様もうお上がり遊ばして?」
「男だもの。あはははは」と快く笑いながら、妻がき
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