く、昇日《のぼるひ》の勢いさかんなるに引きかえて、こなたは武男の父通武が没後は、存生《ぞんじょう》のみぎり何かとたよりて来し大抵の輩《やから》はおのずから足を遠くし、その上|親戚《しんせき》も少なく、知己とても多からず、未亡人《おふくろ》は人好きのせぬ方なる上に、これより家声を興すべき当主はまだ年若にて官等も卑《ひく》き家にあることもまれなれば、家運はおのずから止《よど》める水のごとき模様あり。実家《さと》にては、継母が派手な西洋好み、もちろん経済の講義は得意にて妙な所に節倹を行ない「奥様は土産《みやげ》のやりかたもご存じない」と婢《おんな》どもの陰口にかかることはあれど、そこは軍人|交際《づきあい》の概して何事も派手に押し出してする方なるが、こなたはどこまでも昔風むしろ田舎風《いなかふう》の、よくいえば昔忘れぬたしなみなれど、実は趣味も理屈もやはり米から自分に舂《つ》いたる時にかわらぬ未亡人、何でもかでも自分でせねば頭が痛く、亡夫の時|僕《ぼく》かなんぞのように使われし田崎某《たざきなにがし》といえる正直一図の男を執事として、これを相手に月に薪《まき》が何|把《ば》炭が何俵の勘定まで
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