ちょったものじゃから――はあ、そう、はあ、はあ、何分願います」
 語半ばに入《はい》り来し子爵夫人|繁子《しげこ》、水色眼鏡の方《かた》をちらと見て「もうお帰りでございますの? あいにくの来客で――いえ、今帰りました。なに、また慈善会の相談ですよ。どうせ物にもなりますまいが。本当に今日《きょう》はお愛想《あいそ》もございませんで、どうぞ千鶴子《ちずこ》さんによろしく――浪さんがいなくなりましたらちょっとも遊びにいらッしゃいませんねエ」
 「こないだから少し加減が悪かッたものですから、どこにもごぶさたばかりいたします――では」と信玄袋をとりておもむろに立てば、
 中将もやおら体《たい》を起こして「どれそこまで運動かたがた、なにそこまでじゃ、そら毅一《きい》も道《みい》も運動に行くぞ」
 出《い》づるを送りし夫人繁子はやがて居間の安楽椅子に腰かけて、慈善会の趣意|書《がき》を見ながら、駒子を手招きて、
 「駒さん、何の話だったかい?」
 「あのね、おかあさま、よくはわからなかッたけども、何だか幾の事ですわ」
 「そう? 幾」
 「あのね、川島の老母《おばあさん》がね、リュウマチで肩が痛んで
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