に肩をそびやかし、※[#「※」は「つつみがまえ」+「夕」、第3水準1−14−76、46−2]々《そうそう》に去り行きたり。
 「ヤアイ、逃げた、ヤアイ」
 と叫びながら、水兵は父の書斎に入りつ。来客の顔を見るよりにっこと笑いて、ちょっと頭《かしら》を下げながらつと父の膝《ひざ》にすがりぬ。
 「おや毅一《きい》さん、すこし見ないうちに、また大きくなったようですね。毎日学校ですか。そう、算術が甲? よく勉強しましたねエ。近いうちにおとうさまやおかあさまと伯母さンとこにおいでなさいな」
 「道《みい》はどうした? おう、そうか。そうら、伯母様がこんなものをくださッたぞ。うれしいか、あはははは」と菓子の瓶《びん》を見せながら「かあさんはどうした? まだ客か? 伯母様がもうお帰りなさる、とそう言って来い」
 出《い》で行く子供のあと見送りながら、主人中将はじっと水色眼鏡の顔を見つめて、
 「じゃ幾の事はそうきめてどうか角立《かどだ》たぬように――はあそう願いましょう。いや実はわたしもそんな事がなけりゃいいがと思ったくらいで、まあやらない方じゃったが、浪がしきりに言うし、自身も懇望《こんもう》し
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