なして、姥《うば》の幾に顔しかめさせしも一度二度にはあらず。されば姉は嫁《とつ》ぎての今までも、継母のためには細作をも務むるなりけり。
 東側の縁の、二つ目の窓の陰に身を側《そば》めて、聞きおれば、時々腹より押し出したような父の笑い声、凛《りん》とした伯母の笑い声、かわるがわる聞こえしが、後には話し声のようやく低音《こえひく》になりて、「姑《しゅうとめ》」「浪さん」などのとぎれとぎれに聞こゆるに、紅《あか》リボンの少女《おとめ》はいよよ耳傾けて聞き居たり。

     五の四

 「四《し》イ百《しゃア》く余州を挙《こ》うぞる、十う万ン余騎の敵イ、なんぞおそれンわアれに、鎌倉《かまくーら》ア男児ありイ」
 と足拍子踏みながらやって来しさっきの水兵、目早く縁側にたたずめる紅《あか》リボンを見つけて、紅リボンがしきりに手もて口をおおいて見せ、頭《かしら》を掉《ふ》り手を振りて見せるも委細かまわず「姉《ねえ》さま姉さま」と走り寄り「何してるの?」と問いすがり、姉がしきりに頭《かしら》をふるを「何? 何?」と問うに、紅リボンは顔をしかめて「いやな人だよ」と思わず声高に言って、しまったりと言い顔
前へ 次へ
全313ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング