ね、それでこのごろは大層気むずかしいのですと。それにね、幾が姉《ねえ》さんにね、姉さんのお部屋《へや》でね、あの、奥様、こちらの御隠居様はどうしてあんなに御癇癪《ごかんしゃく》が出るのでございましょう、本当に奥様お辛《つろ》うございますねエ、でもお年寄りの事ですから、どうせ永《なが》い事じゃございません、てね、そんなに言いましたとさ。本当にばかですよ、幾はねエ、おかあさま」
 「どこに行ってもいい事はしないよ。困った姥《ばあ》じゃないかねエ」
 「それからねエ、おかあさま、ちょうどその時縁側を老母《おばあさん》が通ってね、すっかり聞いてしまッて、それはそれはひどく怒《おこ》ってね」
 「罰《ばち》だよ!」
 「怒ってね、それで姉さんが心配して、飯田町《いいだまち》の伯母様に相談してね」
 「伯母様に!?」
 「だッて姉さんは、いつでも伯母様にばかり何でも相談するのですもの」
 夫人は苦笑《にがわら》いしつ。
 「それから?」
 「それからね、おとうさまが幾は別荘番にやるからッてね」
 「そう」と額をいとど曇らしながら「それッきりかい?」
 「それから、まだ聞くのでしたけども、ちょうど毅
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