》ぎりの水兵の服を着て、編み上げ靴をはきたり。一人の曲者は五つか、六つなるべし、紫|矢絣《やがすり》の単衣《ひとえ》に紅《くれない》の帯して、髪ははらりと目の上まで散らせり。
 二人の曲者はしばし戸の外にたゆたいしが、今はこらえ兼ねたるように四つの手ひとしく扉をおしひらきて、一斉に突貫し、室のなかほどに横たわりし新聞|綴込《とじこみ》の堡塁《ほうるい》を難なく乗り越え、真一文字に中将の椅子《いす》に攻め寄せて、水兵は右、振り分け髪は左、小山のごとき中将の膝を生けどり、
 「おとうさま!」

     五の二

 「おう、帰ったか」
 いかにもゆったりとその便々たる腹の底より押しあげたようなる乙音《ベース》を発しつつ、中将はにっこりと笑《え》みて、その重やかなる手して右に水兵の肩をたたき、左に振り分け髪のその前髪をかいなでつ。
 「どうだ、小試験は? でけたか?」
 「僕アね、僕アね、おとうさま、僕ア算術は甲」
 「あたしね、おとうさま、今日《きょう》は縫い取りがよくできたッて先生おほめなすッてよ」
 と振り分け髪はふところより幼稚園の製作物《こしらえもの》を取り出《いだ》して中将の膝の
前へ 次へ
全313ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング