《きょうきょう》たる三軍の心をも安からしむべし。
肱近《ひじちか》のテーブルには青地交趾《せいじこうち》の鉢《はち》に植えたる武者立《むしゃだち》の細竹《さいちく》を置けり。頭上には高く両陛下の御影《ぎょえい》を掲げつ。下りてかなたの一面には「成仁《じんをなす》」の額あり。落款は南洲《なんしゅう》なり。架上に書あり。暖炉縁《マンテルピース》の上、すみなる三角|棚《だな》の上には、内外人の写真七八枚、軍服あり、平装のもあり。
草色のカーテンを絞りて、東南二方の窓は六つとも朗らかに明け放ちたり。東の方《かた》は眼下に人うごめき家かさなれる谷町を見越して、青々としたる霊南台の上より、愛宕塔《あたごとう》の尖《さき》、尺ばかりあらわれたるを望む。鳶《とび》ありてその上をめぐりつ。南は栗《くり》の花咲きこぼれたる庭なり。その絶え間より氷川社《ひかわやしろ》の銀杏《いちょう》の梢《こずえ》青鉾《あおほこ》をたてしように見ゆ。
窓より見晴らす初夏の空あおあおと浅黄繻子《あさぎじゅす》なんどのように光りつ。見る目|清々《すがすが》しき緑葉《あおば》のそこここに、卵白色《たまごいろ》の栗の花ふさふ
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