》の嗜味《しみ》をば著しく描き出《いだ》しぬ。
 ある年の秋の事とか、中将微服して山里に猟《か》り暮らし、姥《ばば》ひとり住む山小屋に渋茶一|碗《わん》所望しけるに、姥《ばば》つくづくと中将の様子を見て、
 「でけえ体格《からだ》だのう。兎《うさぎ》のひとつもとれたんべいか?」
 中将|莞爾《かんじ》として「ちっともとれない」
 「そねエな殺生《せっしょう》したあて、あにが商売になるもんかよ。その体格《からだ》で日傭《ひよう》取りでもして見ろよ、五十両は大丈夫だあよ」
 「月にかい?」
 「あに! 年によ。悪《わり》いこたあいわねえだから、日傭取るだあよ。いつだあておらが世話あしてやる」
 「おう、それはありがたい。また頼みに来るかもしれん」
 「そうしろよ、そうしろよ。そのでけえ体格《からだ》で殺生は惜しいこんだ」
 こは中将の知己の間に一つ話として時々|出《い》づる佳話なりとか。知らぬ目よりはさこそ見ゆらめ。知れる目よりはこの大山《たいさん》巌々《がんがん》として物に動ぜぬ大器量の将軍をば、まさかの時の鉄壁とたのみて、その二十二貫小山のごとき体格と常に怡然《いぜん》たる神色とは洶々
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