恋しいか。いや困った小浪《こなみ》御寮《ごりょう》だ。小浪といえば、ねエお豊、ちっと気晴らしに京都にでも行って見んか。そらアおもしろいぞ。祇園《ぎおん》清水《きよみず》知恩院《ちおんいん》、金閣寺《きんかくじ》拝見がいやなら西陣《にしじん》へ行って、帯か三|枚襲《まいがさね》でも見立てるさ。どうだ、あいた口に牡丹餅《ぼたもち》よりうまい話だろう。御身《おまえ》も久しぶりだ、お豊を連れて道行きと出かけなさい、なあおすみ」
 「あんたもいっしょに行きなはるのかいな」
 「おれ? ばかを言いなさい、この忙《せわ》しいなかに!」
 「それならわたしもまあ見合わせやな」
 「なぜ? 飛んだ義理立てさするじゃないか。なぜだい?」
 「おほ」
 「なぜだい?」
 「おほほほほほ」
 「気味の悪《わり》い笑い方をするじゃないか。なぜだい?」
 「あんた一人《ひとり》の留守が心配やさかい」
 「ばかをいうぜ。お豊の前でそんな事いうやつがあるものか。お豊、母《おっか》さんの言ってる事《こた》ア皆うそだぜ、真《ま》に受けるなよ」
 「おほほほ。どないに口で言わはってもあかんさかいなア」
 「ばかをいうな。そ
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