笑いながら枕《まくら》べにすわるは、父の山木と母なり。娘はさすがにあわてて写真を押し隠し、起きもされず寝もされずといわんがごとく横になりおる。
「どうだ、お豊、気分は? ちっとはいいか? 今隠したのは何だい。ちょっと見せな、まあ見せな。これさ見せなといえば。――なんだ、こりア、浪子さんの顔じゃないか、ひどく爪かたをつけたじゃないか。こんな事するよりか丑《うし》の時参りでもした方がよっぽど気がきいてるぜ!」
「あんたまたそないな事を!」
「どうだ、お豊、御身《おまえ》も山木兵造の娘じゃないか。ちっと気を大きくして山気《やまき》を出せ、山気を出せ、あんなけちけちした男に心中立て――それもさこっちばかりでお相手なしの心中立てするよりか、こら、お豊、三井《みつい》か三菱《みつびし》、でなけりゃア大将か総理大臣の息子《むすこ》、いやそれよりか外国の皇族でも引っかける分別をしろ。そんな肝ッ玉の小せエ事でどうするものか。どうだい、お豊」
母の前では縦横に駄々《だだ》をこねたまえど、お豊姫もさすがに父の前をば憚《はばか》りたもうなり。突っ伏して答えなし。
「どうだ、お豊、やっぱり武男さんが
前へ
次へ
全313ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング