おおわらわ》に振り乱し、ごろりと横に臥《ふ》したる十七八の娘、色白の下豊《しもぶくれ》といえばかあいげなれど、その下豊《しもぶくれ》が少し過ぎて頬《ほお》のあたりの肉今や落ちんかと危ぶまるるに、ちょっぽりとあいた口は閉ずるも面倒といい貌《がお》に始終|洞門《どうもん》を形づくり、うっすりとあるかなきかの眉《まゆ》の下にありあまる肉をかろうじて二三|分《ぶ》上下《うえした》に押し分けつつ開きし目のうちいかにも春がすみのかけたるごとく、前の世からの長き眠りがとんと今もってさめぬようなり。
今何かいいつけられて笑いを忍んで立って行く女の背《せな》に、「ばか」と一つ後ろ矢を射つけながら、女《むすめ》はじれったげに掻巻《かいまき》踏みぬぎ、床の間にありし大形の――袴《はかま》はきたる女生徒の多くうつれる写真をとりて、糸のごとき目にまばたきもせず見つめしが、やがてその一人《ひとり》の顔と覚しきあたりをしきりに爪弾《つまはじ》きしつ。なおそれにも飽き足らでや、爪《つめ》もてその顔の上に縦横に疵《きず》をつけぬ。
襖《ふすま》の開く音。
「たれ? 竹かい」
「うん竹だ、頭の禿《は》げた竹だ」
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