かでもないから、おれもよほどお豊を入れ込もうと骨折って見たじゃないか。しかしだめで、もうちゃんと婚礼が済んで見れば、何もかも御破算さ。お浪さんが死んでしまうか、離縁にでもならなきゃア仕方がないじゃないか。それよりもばかな事はいい加減に思い切ッてさ、ほかに嫁《かたづ》く分別が肝心じゃないか、ばかめ」
「何が阿呆《あほう》かいな? はい、あんた見たいに利口やおまへんさかいな。好年配《えいとし》をして、彼女《あれ》や此女《これ》や足袋《たび》とりかえるような――」
「そう雄弁|滔々《とうとう》まくしかけられちゃア困るて。御身《おまえ》は本当に馬《ば》――だ。すぐむきになりよる。なにさ、おれだッて、お豊は子だもの、かあいがらずにどうするものか、だからさ、そんなくだらぬ繰り言ばっかり言ってるよりも、別にな、立派なとこに、な、生涯楽をさせようと思ってるのだ。さ、おすみ、来なさい、二人《ふたり》でちっと説諭でもして見ようじゃないか」
と夫婦打ち連れ、廊下伝いに娘お豊の棲《す》める離室《はなれ》におもむきたり。
山木兵造というはいずこの人なりけるにや、出所定かならねど、今は世に知られたる紳商と
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