よ》さんが? 病気ですか」
 「実はその、何です。この一月ばかり病気をやってな、それで家内が連れて此家《ここ》へ来ているですて。いや千々岩さん、妻《かか》だの子だの滅多に持つもんじゃないね。金もうけは独身に限るよ。はッははは」
 主人《あるじ》と女中《おんな》に玄関まで見送られて、千々岩は山木の別邸を出《い》で行きたり。

     四の三

 千々岩を送り終わりて、山木が奥へ帰り入る時、かなたの襖《ふすま》すうと開きて、色白きただし髪薄くしてしかも前歯二本不行儀に反《そ》りたる四十あまりの女入り来たりて山木のそばに座を占めたり。
 「千々岩さんはもうお帰り?」
 「今追っぱらったとこだ。どうだい、豊《とよ》は?」
 反歯《そっぱ》の女はいとど顔を長くして「ほんまに良人《あんた》。彼女《あれ》にも困り切りますがな。――兼《かね》、御身《おまえ》はあち往《い》っておいで。今日《きょう》もなあんた、ちいと何かが気に食わんたらいうて、お茶碗《ちゃわん》を投げたり、着物を裂いたりして、しようがありまへんやった。ほんまに十八という年をして――」
 「いよいよもって巣鴨《すがも》だね。困ったやつだ
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