れて花牌《はなふだ》など落ち散るにふさわしかるべき二階の一室《ひとま》に、わざと電燈の野暮《やぼ》を避けて例の和洋行燈《あんどうらんぷ》を据え、取り散らしたる杯盤の間に、あぐらをかけるは千々岩と今|一人《ひとり》の赤黒子は問うまでもなき当家の主人山木兵造なるべし。
遠ざけにしや、そばに侍《はんべ》る女もあらず。赤黒子の前には小形の手帳を広げたり、鉛筆を添えて。番地官名など細かに肩書きして姓名|数多《あまた》記《しる》せる上に、鉛筆にてさまざまの符号《しるし》つけたり。丸。四角。三角。イの字。ハの字。五六七などの数字。あるいはローマ数字。点かけたるもあり。ひとたび消してイキルとしたるもあり。
「それじゃ千々岩さん。その方はそれと決めて置いて、いよいよ定《き》まったらすぐ知らしてくれたまえ。――大丈夫間違はあるまいね」
「大丈夫さ、もう大臣の手もとまで出ているのだから。しかし何しろ競争者《あいて》がしょっちゅう運動しとるのだから例のも思い切って撒《ま》かんといけない。これだがね、こいつなかなか食えないやつだ。しッかり轡《くつわ》をかませんといけないぜ」と千々岩は手帳の上の一《いつ》の
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