フォムの砂利踏みにじりて、五六人ドヤドヤと中等室に入り込みぬ。なかに五十あまりの男の、一楽《いちらく》の上下《にまい》ぞろい白縮緬《しろちりめん》の兵児帯《へこおび》に岩丈な金鎖をきらめかせ、右手《めて》の指に分厚《ぶあつ》な金の指環《ゆびわ》をさし、あから顔の目じり著しくたれて、左の目下にしたたかなる赤黒子《あかぼくろ》あるが、腰かくる拍子にフット目を見合わせつ。
「やあ、千々岩さん」
「やあ、これは……」
「どちらへおいででしたか」言いつつ赤黒子は立って千々岩がそばに腰かけつ。
「はあ、高崎まで」
「高崎のお帰途《かえり》ですか」ちょっと千々岩の顔をながめ、少し声を低めて「時にお急ぎですか。でなけりゃ夜食でもごいっしょにやりましょう」
千々岩はうなずきたり。
四の二
橋場の渡しのほとりなるとある水荘の門に山木兵造《やまきひょうぞう》別邸とあるを見ずば、某《なにがし》の待合《まちあい》かと思わるべき家作《やづく》りの、しかも音締《ねじ》めの響《おと》しめやかに婀娜《あだ》めきたる島田の障子《しょうじ》に映るか、さもなくば紅《くれない》の毛氈《もうせん》敷か
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