ここより手紙文、1字下げ]
 もはや最後も遠からず覚え候《そうろう》まま一筆《ひとふで》残しあげ参らせ候 今生《こんじょう》にては御目《おんめ》もじの節《ふし》もなきことと存じおり候ところ天の御憐《おんあわれ》みにて先日は不慮の御《おん》目もじ申しあげうれしくうれしくしかし汽車の内のこととて何も心に任せ申さず誠に誠に御《おん》残り多く存じ上げ参らせ候
[#1字下げ終わり]
 車の窓に身をもだえて、すみれ色のハンケチを投げしその時の光景《ありさま》は、歴々と眼前に浮かびつ。武男は目を上げぬ。前にはただ墓標あり。
 [#ここより手紙文、1字下げ]
 ままならぬ世に候えば、何も不運と存じたれも恨み申さずこのままに身は土と朽ち果て候うとも魂《たま》は永《なが》く御側《おんそば》に付き添い――
[#1字下げ終わり]
 「おとうさま、たれか来てますよ」と涼しき子供の声耳近に響きつ。引きつづいて同じ声の
 「おとうさま、川島の兄君《にいさん》が」と叫びつつ、花をさげたる十ばかりの男児《おのこ》武男がそばに走り寄りぬ。
 驚きたる武男は、浪子の遺書を持ちたるまま、涙《なんだ》を払ってふりかえりつつ、あ
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