たかも墓門に立ちたる片岡中将と顔見合わしたり。
 武男は頭《かしら》をたれつ。
 たちまち武男は無手《むず》とわが手を握られ、ふり仰げば、涙を浮かべし片岡中将の双眼と相対《あいむか》いぬ。
 「武男さん、わたしも辛《きつ》かった!」
 互いに手を握りつつ、二人が涙は滴々として墓標の下《もと》に落ちたり。
 ややありて中将は涙《なんだ》を払いつ。武男が肩をたたきて
 「武男|君《さん》、浪は死んでも、な、わたしはやっぱい卿《あんた》の爺《おやじ》じゃ。しっかい頼んますぞ。――前途遠しじゃ。――ああ、久しぶり、武男さん、いっしょに行って、ゆるゆる台湾の話でも聞こう!」



底本:「小説 不如帰」岩波文庫、岩波書店
   1938(昭和13)年7月1日第1刷発行
   1971(昭和46)年4月16日第34刷改版発行
※1898(明治31)年から翌年にかけて「国民新聞」に連載されたとき、不如帰には「ほととぎす」と読みが示してあった。後に著者は、本作品を「ふじょき」と呼び、巻頭の「第百版不如帰の巻首に」にも、そうルビが付してある。だが、青空文庫には、広く流布している「ほととぎす」で登録するこ
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