居様、さすがお目が届きましたね」
 川島夫人は顔ふくらしつ。
 「彼女《あい》の事じゃ、わたしも実に困いましたよ。銭はつかう、悴《せがれ》とけんかまでする、そのあげくにゃ鬼婆《おにばば》のごと言わるる、得のいかン※[#「※」は「おんなへん+息」、第4水準2−5−70、221−16]御《よめご》じゃってな、山木さん――。そいばかいか彼女《あい》が死んだと聞いたから、弔儀《くやみ》に田崎をやって、生花《はな》をなあ、やったと思いなさい。礼どころか――突っ返して来申《きも》した。失礼じゃごあはんか、なあ山木さん」
 浪子が死せしと聞きしその時は、未亡人もさすがによき心地《ここち》はせざりしが、そのたまたま贈りし生花の一も二もなく突き返されしにて、万《よろず》の感情はさらりと消えて、ただ苦味《にがみ》のみ残りしなり。
 「へエ、それは――それはまたあんまりな。――いや、御隠居様――」
 小間使いがささげ来たれる一|碗《わん》の茗《めい》になめらかなる唇をうるおし
 「昨年来は長々お世話に相成りましてございますが、娘――豊《とよ》も近々《ちかぢか》に嫁にやることにいたしまして――」
 「お豊どん
前へ 次へ
全313ページ中306ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング