名医の術も施すに由なく、幾が夜ごと日ごとの祈念もかいなく、病は日《ひび》に募りぬ。数度の喀血《かっけつ》、その間々《あいあい》には心臓の痙攣《けいれん》起こり、はげしき苦痛のあとはおおむね※[#「※」は「りっしんべん+昏」、第4水準2−12−54、212−10]々《こんこん》としてうわ言を発し、今日は昨日より、翌日《あす》は今日より、衰弱いよいよ加わりつ。その咳嗽《がいそう》を聞いて連夜《よごと》ねむらぬ父中将のわが枕《まくら》べに来るごとに、浪子はほのかに笑《え》みて苦しき息を忍びつつ明らかにもの言えど、うとうととなりては絶えず武男の名をば呼びぬ。
       *
 今日明日と医師のことに戒めしその今日は夕べとなりて、部屋《へや》部屋は燈《ともしび》あまねく点《つ》きたれど、声高《こわだか》にもの言う者もなければ、しんしんとして人ありとは思われず。今皮下注射を終えたるあとをしばし静かにすとて、廊下伝いに離家《はなれ》より出《い》で来し二人の婦人は、小座敷の椅子《いす》に倚《よ》りつ。一人は加藤子爵夫人なり。今一人はかつて浪子を不動祠畔《ふどうしはん》に救いしかの老婦人なり。去年
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