心をくむに難からず。浪子は限りなき父の愛を想うにつけても、今の身はただ慰めらるるほかに父を慰むべき道なきを哀《かな》しみつ。世を忘れ人を離れて父子《おやこ》ただ二人|名残《なごり》の遊びをなす今日このごろは、せめて小供の昔にかえりて、物見遊山《ものみゆさん》もわれから進み、やがて消ゆべき空蝉《うつせみ》の身には要なき唐《から》織り物も、末は妹《いもと》に紀念《かたみ》の品と、ことに華美《はで》なるを選みしなり。
 父を哀《かな》しと思えば、恋しきは良人武男。旅順に父の危難《あやうき》を助けたまいしとばかり、後の消息はたれ伝うる者もなく、思いは飛び夢は通えど、今はいずくにか居たもうらん。あいたし、一度あいたし、生命《いき》あるうちに一度、ただ一度あいたしと思うにつけて、さきに聞きつる鄙歌《ひなうた》のあいにく耳に響き、かの百姓夫婦のむつまじく語れる面影は眼前《めさき》に浮かび、楽しき粗布《あらぬ》に引きかえて憂いを包む風通《ふうつう》の袂《たもと》恨めしく――
 せぐり来る涙をハンケチにおさえて、泣かじと唇《くちびる》をかめば、あいにくせきのしきりに濡れぬ。
 中将は気づかわしげに、ふり
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