め、土瓶《どびん》の大いなるを手にさげたり。出会いざまに、立ちどまりて、しばし一行の様子を見し女は、行き過ぎたる男のあと小走りに追いかけて、何かささやきつ。二人ともに振りかえりて、女は美しく染めたる歯を見せてほほえみしが、また相語りつつ花|茨《いばら》こぼるる畦路《あぜみち》に入り行きたり。
浪子の目はそのあとを追いぬ。竹の子|笠《がさ》と白手ぬぐいは、次第に黄ばめる麦に沈みて、やがてかげも見えずなりしと思えば、たちまち畑《はた》のかなたより
「郎《ぬし》は正宗《まさむね》、わしア錆《さ》び刀、郎《ぬし》は切れても、わしア切れエ――ぬ」
歌う声哀々として野づらに散りぬ。
浪子はさしうつむきつ。
ふりかえり見し父中将は
「くたびれたじゃろう。どれ――」
言いつつ浪子の手をとりぬ。
八の二
中将は浪子の手をひきつつ
「年のたつは早いもンじゃ。浪、卿《おまえ》はおぼえておるかい、卿《おまえ》がちっちゃかったころ、よくおとうさんに負ぶさって、ぽんぽんおとうさんが横腹をけったりしおったが。そうじゃ、卿《おまえ》が五つ六つのころじゃったの」
「おほほほほ、さようでご
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