ふたり相対《あいむか》いてしばし黙然《もくねん》としていたりしが、老爺《じじい》はさすがに気の毒と思い返ししように、
「ちょいと戸を明けますべえ。旦那様、お茶でも上がってまあお休みなさッておいでなせエましよ」
「何、かまわずに置いてもらおう。ちょっと通りかかりに寄ったんだ」
言いすてて武男はかつて来なれし屋敷|内《うち》を回り見れば、さすがに守《も》る人あれば荒れざれど、戸はことごとくしめて、手水鉢《ちょうずばち》に水絶え、庭の青葉は茂りに茂りて、ところどころに梅子《うめのみ》こぼれ、青々としたる芝生《しばふ》に咲き残れる薔薇《ばら》の花半ばは落ちて、ほのかなる香《かおり》は庭に満ちたり。いずくにも人の気《け》はなくて、屋後《おくご》の松に蝉《せみ》の音《ね》のみぞかしましき。
武男は※[#「※」は「つつみがまえ」+「夕」、第3水準1−14−76、205−14]々《そうそう》に老爺《じじい》に別れて、頭《かしら》をたれつつ出《い》で去りぬ。
五六日を経て、武男はまた家を辞して遠く南征の途に上ることとなりぬ。家に帰りて十余日、他の同僚は凱旋《がいせん》の歓迎のとおもしろく騒
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