せんで、はあお世話様になりますでごぜエますよ」
 「何かい、老爺《おまえ》はもうよっぽど長く留守をしとるのか?」
 「いいや、何でごぜエますよ、その、先月《あとげつ》までは奥様――ウンニャお嬢――ごご御病人様とばあやさんがおいでなさったんで、それからまア老爺《わたくし》がお留守をいたしておるでごぜエますよ」
 「それでは先月《あとげつ》帰京《かえ》ったンだね――では東京《あっち》にいるのだな」
 と武男はひとりごちぬ。
 「はい、さよさまで。殿様が清国《あっち》からお帰《けえ》りなさるその前《めえ》に、東京にお帰《けえ》りなさったでごぜエますよ。はア、それから殿様とごいっしょに京都《かみがた》に行かっしゃりました御様子で、まだ帰京《けえ》らっしゃりますめえと、はや思うでごぜエますよ」
 「京都《かみがた》に?――では病気がいいのだな」
 武男は再びひとりごちぬ。
 「で、いつ行ったのだね?」
 「四五日《しごんち》前――」と言いかけしが、老爺《じじい》はふと今の関係を思い出《い》でて、言い過ぎはせざりしかと思い貌《がお》にたちまち口をつぐみぬ。それと感ぜし武男は思わず顔をあからめたり。
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