》れぬ片岡家、さながら日よりも遠く、彼女《かれ》が伯母の家は呼べば応《こた》うる近くにありながら、何の顔ありて行きてその消息を問うべきぞ。想《おも》えば去年の五月艦隊の演習におもむく時、逗子に立ち寄りて別れを告げしが一生の別離《わかれ》とは知らざりき。かの時別荘の門に送り出《い》でて「早く帰ってちょうだい」と呼びし声は今も耳底《みみ》に残れど、今はたれに向かいて「今帰った」というべきぞ。
 かく思いつづけし武男は、一日《あるひ》横須賀におもむきしついでに逗子に下りて、かの別墅《べっしょ》の方に迷い行けば、表の門は閉じたり。さては帰京せしかと思いわびつつ、裏口より入り見れば、老爺《じじい》一人《ひとり》庭の草をむしり居《い》つ。

    七の二

 武男が入り来る足音に、老爺《じじい》はおもむろに振りかえりて、それと見るよりいささか驚きたる体《てい》にて、鉢巻《はちまき》をとり、小腰を屈《かが》めながら
 「これはおいでなせえまし。旦那様アいつお帰《けえ》りでごぜエましたんで?」
 「二三日前に帰った。老爺《おまえ》も相変わらず達者でいいな」
 「どういたしまして、はあ、ねッからいけま
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