に六七間の距離に迫りて、右手《めて》は上がり、短銃響き、細長なる一人はどうと倒れぬ。驚きて振りかえる他の一人を今一発、短銃の弾機をひかんとせる時、まっしぐらに馳《は》せつきたる武男は拳《こぶし》をあげて折れよと彼が右腕《うで》をたたきつ。短銃落ちぬ。驚き怒りてつかみかかれる彼を、武男は打ち倒さんと相撲《すま》う。かの濶大《かつだい》なる一人も走《は》せ来たりて武男に力を添えんとする時、短銃の音に驚かされしわが兵士ばらばらと走《は》せきたり、武男が手にあまるかの清人を直ちに蹴《け》倒して引っくくりぬ。瞬間の争いに汗になりたる武男が混雑の間より出《い》でける時、倒れし一人をたすけ起こせるかの濶大なる一人はこなたに向かい来たりぬ。
 この時街燈の光はまさしく片岡中将の面《おもて》をば照らし出《いだ》しつ。
 武男は思わず叫びぬ。
 「やッ、閣下《あなた》は!」
 「おッきみは!」
 片岡中将はその副官といずくかへ行ける帰途《かえり》を、殊勝にも清人《しんじん》のねらえるなりき。
 副官の疵《きず》は重かりしが、中将は微傷だも負わざりき。武男は図らずして乃舅《だいきゅう》を救えるなり。
   
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