に思わるれど、目に温《あたた》かなる光ありて、細き口もとにおのずからなる微笑あり。
 幾があたかもうわさしたるはこの人なり。未《いま》だし。一週間以前の不動|祠畔《しはん》の水屑《みくず》となるべかりし浪子をおりよくも抱き留めたるはこの人なりけり。
 ラッパを吹き鼓を鳴らして名を売ることをせざれば、知らざる者は名をだに聞かざれど、知れる者はその包むとすれどおのずから身にあふるる光を浴びて、ながくその人を忘るるあたわずというなり。姓は小川《おがわ》名は清子《きよこ》と呼ばれて、目黒《めぐろ》のあたりにおおぜいの孤児女と棲《す》み、一大家族の母として路傍に遺棄せらるる幾多の霊魂を拾いてははぐくみ育つるを楽しみとしつ。肋膜炎《ろくまくえん》に悩みし病余の体《たい》を養うとて、昨月の末より此地《ここ》に来たれるなるが、かの日、あたかも不動祠にありて図らず浪子を抱《いだ》き止め、その主人を尋ねあぐみて狼狽《ろうばい》して来たれる幾に浪子を渡せしより、おのずから往来の道は開けしなり。

     五の二

 茶を持《も》て来て今|罷《まか》らんとしつる幾はやや驚きて
 「まあ、明日《あす》お帰京《
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