の二百五十円より下の月給の良人《ひと》には嫁《い》かない、なんぞ申しましてね。ほんとにあなた、あきれかえるじゃございませんか。もとはやさしい娘《こ》でしたのに、どうしてあんなになったンでございましょうねエ。これが切支丹の魔法でございましょうね」
「ほほほほ。そんなでも困るのね。でも、何だッて、いい所もあれば、わるいところもあるから、よく知らないではいわれないよ。ねエばあや」
心得ずといわんがごとく小首傾けし幾は、熱心に浪子を仰ぎつつ
「でもあなた、耶蘇《やそ》だけはおよし遊ばせ」
浪子はほほえみつ。
「あの方とお話ししてはいけないというのかい」
「耶蘇《やそ》がみんなあんな方だとようございますがねエ、あなた。でも――」
幾は口をつぐみぬ。うわさをすれば影ありありと西側の障子に映り来たれるなり。
「お庭口から御免ください」
細く和らかなる女の声響きて、忙《いそが》わしく幾がたちてあけし障子の外には、五十あまりの婦人の小作りなるがたたずみたり。年よりも老《ふ》けて、多き白髪《しらが》を短くきり下げ、黒地の被布《ひふ》を着つ。やせたる上にやつれて見ゆれば、打ち見にはやや陰気
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