る時なれ。導きたまえ、母。許したまえ、父。十九年の夢は、今こそ――。
襟《えり》引き合わせ、履物《はきもの》をぬぎすてつつ、浪子は今打ち寄せし浪の岩に砕けて白泡《しらあわ》沸《たぎ》るあたりを目がけて、身をおどらす。
その時、あと背後《うしろ》に叫ぶ声して、浪子はたちまち抱き止められつ。
五の一
「ばあや。お茶を入れるようにしてお置き。もうあの方がいらっしゃる時分ですよ」
かく言いつつ浪子はおもむろに幾を顧みたり。幾はそこらを片づけながら
「ほんとにあの方はいい方《かた》でございますねエ。あれでも耶蘇《やそ》でいらッしゃいますッてねエ」
「ああそうだッてね」
「でもあんな方が切支丹《きりしたん》でいらッしゃろうとは思いませんでしたよ。それにあんなに髪を切ッていらッしゃるのですら」
「なぜかい?」
「でもね、あなた、耶蘇の方では御亭主が亡《な》くなッても髪なんぞ切りませんで、なおのことおめかしをしましてね、すぐとまたお嫁入りの口をさがしますとさ」
「ほほほほ、ばあやはだれからそんな事を聞いたのかい?」
「イイエ、ほんとでございますよ。一体あの宗旨では、
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