たる岩も砕けよとうちつけつ。渺々《びょうびょう》たる相洋は一|分時《ぷんじ》ならずして千波|万波《ばんぱ》鼎《かなえ》のごとく沸きぬ。
雨と散るしぶきを避けんともせず、浪子は一心に水の面《おも》をながめ入りぬ。かの水の下には死あり。死はあるいは自由なるべし。この病をいだいて世に苦しまんより、魂魄《こんぱく》となりて良人に添うはまさらずや。良人は今黄海にあり。よしはるかなりとも、この水も黄海に通えるなり。さらば身はこの海の泡《あわ》と消えて、魂《たま》は良人のそばに行かん。
武男が書をばしっかとふところに収め、風に乱るる鬢《びん》かき上げて、浪子は立ち上がりぬ。
風は※[#「※」は「風」+「犬」を3つ、第4水準2−92−41、183−11]々《ひょうひょう》として無辺の天より落とし来たり、かろうじて浪子は立ちぬ。目を上ぐれば、雲は雲と相追うて空を奔《はし》り、海は目の届く限り一面に波と泡とまっ白に煮えかえりつ。湾を隔つる桜山は悲鳴してたてがみのごとく松を振るう。風|吼《ほ》え、海|哮《たけ》り、山も鳴りて、浩々《こうこう》の音天地に満ちぬ。
今なり、今なり、今こそこの玉の緒は絶ゆ
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