る良人はありながら容赦もなく間を裂かれて、夫と呼び妻と呼ばるることもならぬ身となり果てつ。もしそれほど不運なるべき身ならば、なにゆえ世には生まれ来しぞ。何ゆえ母上とともに、われも死なざりしぞ。何ゆえに良人のもとには嫁しつるぞ。何ゆえにこの病を発せしその時、良人の手に抱《いだ》かれては死せざりしぞ。何ゆえに、せめてかの恐ろしき宣告を聞けるその時、その場に倒れては死なざりしぞ。身には不治の病をいだきて、心は添われぬ人を恋う。何のためにか世に永《なが》らうべき。よしこの病|癒《い》ゆとも、添われずば思いに死なん――死なん。
 死なん。何の楽しみありて世に永らうべき。
 はふり落つる涙をぬぐいもあえず、浪子は海の面《おもて》を打ちながめぬ。
 伊豆大島《いずおおしま》の方《かた》に当たりて、墨色に渦まける雲急にむらむらと立つよと見る時、いうべからざる悲壮の音ははるかの天空より落とし来たり、大海の面《おもて》たちまち皺《しわ》みぬ。一陣の風吹き出《い》でけるなり。その風|鬢《びん》をかすめて過ぎつと思うほどなくまっ黒き海の中央《まなか》に一団の雪わくと見る見る奔馬のごとく寄せて、浪子が坐《ざ》し
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