しょ》に病を養えるなりき。
四の二
逗子に来てよりは、症《やまい》やや快く、あたりの静かなるに、心も少しは静まりぬ。海の音遠き午後《ひるすぎ》、湯上がりの体《たい》を安楽|椅子《いす》に倚《よ》せて、鳥の音の清きを聞きつつうっとりとしてあれば、さながら去《い》にし春のころここにありける時の心地《ここち》して、今にも良人の横須賀より来たり訪《と》わん思いもせらるるなりけり。
別墅《べっしょ》の生活は、去る四五月のころに異ならず。幾と看護婦を相手に、日課は服薬運動の時間を違《たが》えず、体温を検し、定められたる摂生法を守るほかは、せめての心やりに歌|詠《よ》み秋草を活《い》けなどして過ごせるなり。週に一二回、医は東京より来たり見舞いぬ。月に両三日、あるいは伯母、あるいは千鶴子、まれに継母も来たり見舞いぬ。その幼き弟妹《はらから》二人は病める姉をなつかしがりて、しばしば母に請えど、病を忌み、かつは二人の浪子になずくをおもしろからず思える母は、ただしかりてやみぬ。今の身の上を聞き知りてか、昔の学友の手紙を送れるも少なからねど、おおかたは文字《もじ》麗しくして心を慰むべきものは
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