実にただ一の活路なりけり。浪子は死をまちわびぬ。身は病の床に苦しみ、心はすでに世の外《ほか》に飛びき。今日《きょう》にもあれ、明日《あす》にもあれ、この身の絆《ほだし》絶えなば、惜しからぬ世を下に見て、魂《こん》千万里の空《くう》を天に飛び、なつかしき母の膝《ひざ》に心ゆくばかり泣きもせん、訴えもせん、と思えば待たるるは実に死の使いなりけり。
あわれ彼女《かれ》は死をだに心に任せざりき。今日、今日と待ちし今日は幾たびかむなしく過ぎて、一月あまり経たれば、われにもあらで病やや間《かん》に、二月を経てさらに軽《かろ》くなりぬ。思いすてし命をまたさらにこの世に引き返されて、浪子はまた薄命に泣くべき身となりぬ。浪子は実に惑えるなり。生の愛すべく死の恐るべきを知らざる身にはあらずや。何のために医を迎え、何のために薬を服し、何のために惜しからぬ命をつながんとするぞ。
されど父の愛あり。朝《あした》に夕《ゆうべ》に彼女《かれ》が病床を省《せい》し、自ら薬餌《やくじ》を与え、さらに自ら指揮して彼女《かれ》がために心静かに病を養うべき離家《はなれ》を建て、いかにもして彼女《かれ》を生かさずばやまざら
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