響《おと》もなし。鶏《とり》鳴き、ふなうた遠く聞こゆ。
 武男は目を開いて笑《え》み、また目を閉じて思いぬ。
       *
 武男が黄海に負傷して、ここ佐世保の病院に身を託せしより、すでに一月余り過ぎんとす。
 かの時、砲台の真中《まなか》に破裂せし敵の大榴弾《だいりゅうだん》の乱れ飛ぶにうたれて、尻居《しりい》にどうと倒れつつはげしき苦痛に一時われを失いしが、苦痛のはなはだしかりしわりに、脚部の傷は二か所とも幸いに骨を避《よ》けて、その他はちとの火傷を受けたるのみ。分隊長は骸《がい》も留めず、同僚は戦死し、部下の砲員無事なるはまれなりしがなかに、不思議の命をとりとめて、この海軍病院に送られつ。最初《はじめ》はさすがに熱もはげしく上りて、ベッドの上のうわ言にも手を戟《ほこ》にして敵艦をののしり分隊長と叫びては医員を驚かししが、もとより血気盛んなる若者の、傷もさまで重きにあらず、時候も秋涼に向かえるおりから、熱は次第に下り、経過よく、膿腫《のうしょう》の患《うれい》もなくて、すでに一月あまり過ぎし今日《きょう》このごろは、なお幾分の痛みをば覚ゆれど、ともすれば石炭酸の臭《か》の満ちた
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